リチャード・ジャック氏のインタビュー
ゲーミングサウンド - ゲーミングの新次元を切り開く
コンピューターゲームは、グラフィックにいっそう現実感を増し、ストーリーラインとゲームプレーの質を高め、オーディオを改良し、常に進化しています。 ディペロッパーたちは常に、プレーヤーをそのゲームに何度でも引き付ける、包み込むような体験を探求し続けています。
ドルビー®は、1992年よりゲーム関連事業に携わっており、映画および家庭用音響システムのサラウンドサウンドの経験をゲーム機に生かしています。ディペロッパーがゲームにさらなる価値を加え、プレーヤーを3Dゲーミング体験で包み込むことができるようになりました。
ゲームオーディオが進化する一方、ゲームオーディオディベロッパーも進化を遂げています。 ドルビーは、トップクラスのゲームミュージック作曲家であるリチャード・ジャック氏にインタビューし、仕事の中でサラウンドサウンドをどのように活用しているかを聞きました。
リチャード・ジャック氏
ジャック氏が初めて作曲をしたのは7歳の時ですが、その頃から音楽とコンピューターゲームに熱中するようになり、今もその情熱は変わりません。 大学時代は、クラシック音楽を専攻するかたわら、セガ®メガドライブとコンピューターゲームをプレーして過ごしました。
そのような彼にとって、セガで音楽、サウンドデザイン、ダイアローグ制作の能力が必要な作曲者としての職を得たのは当然のことでした。彼が初めて携わったゲームは、セガサターン向けの「Shinobi X」(日本の忍者ゲーム)でした。
当時のオーディオトラックや音響効果は、まだサラウンドサウンドからは程遠いものでした。 ジャック氏は、昔から映画のサラウンドサウンドが大好きで、ドルビー®サラウンドを使用したレーザーディスクを数多くコレクションしていました。 そしてある日、サラウンドサウンドがコンピューターゲームの世界でも使えるようになることを知ったのです。
1997年、ドルビーがDigidesignと共同で開発したサラウンドサウンドのミキシングツールを発売し、ジャック氏はそれらを使ってコンピューターゲームのデモンストレーションを試行してみました。 彼は、今後DVDの時代が訪れ、サラウンドサウンドがすぐにも使えるようになり、そしてゲーム機にもサラウンドサウンドの波が押し寄せるのは時間の問題だと考えました。
「ゲームプレーヤーは、ゲームの中に完全に没入します」と、ジャック氏は言います。 「ゲームの中では自分がアクションをコントロールするので、僕の意見では、ゲームのオーディオは映画のオーディオよりはるかに重要なのです。 自分が登場人物であり、監督であり、アクションの中心です。だから、オーディオミックスは自分を中心に展開する必要があります。」
「いまや家庭でも、サラウンドサウンドは手が届きやすいものになっています。サラウンドが使われているということが、アクションには非常に重要です。 もしゲームにサラウンドサウンドを加えることができないなら、また、もし人々が家庭で5.1システムに接続して聴いてくれないなら、僕たちは無駄な努力をしていることになります!」
ゲームのサウンドトラック制作が本業となったものの、サラウンドサウンドはまだ彼を悩ませていました。 ドリームキャストでテストしようとしても、CPUが使えないので、サラウンドトラックを作るには、メインゲームエンジンにかなりの負荷がかかっていました。
ジャック氏がサラウンド作品として制作した初めてのゲームは、「Jet Set Radio Future」です。主に日本においてMicrosoft® Xbox®向けに制作されました。 アニメタッチの都会的な雰囲気を持ち、セルシェーディングによる3Dグラフィックを用いた最初のゲームです。 ジャックは、サウンドトラックの様々なトラックを制作しました。その際にドルビーデジタル5.1サラウンドを活用し、自分の得意分野を見つけたと感じたのです。
「2001年のことです。5.1対応のXboxが登場し、ゲームサウンドは大きく前進しました。しかし、PlayStation® 2とゲームキューブ™ に採用されたプロロジック® IIのほうが普及し、僕たちは次世代ゲーム機の進化を待つことになりました。」
5.1対応ゲーム機の登場により、ジャック氏は、これまでのお気に入りのゲームである「Headhunter®」シリーズの制作に携わることができました。 スウェーデンの開発会社Amuzeのチームは、現実感を制作上の重要価値として、本当に映画のようなゲームを作ることを望んでいました。 スクリプトライター、サウンドデザイナー、スコアコンポーザー(ジャック氏自身)、そしてもちろんディレクターがいました。 サウンドデザイナーのドミニク・ギブズとアシスタントのグレッグ・ウィルソンは、いつもはパインウッド・スタジオやシェパートン・スタジオで映画のサウンドデザインの仕事をしていました。 彼らはゲームの仕事をしたことがなく、ハードウェアの制約の中で仕事をすることに慣れていませんでした。 だからこそ仕事上の人間関係が非常に重要な意味を持ったのであり、ジャック氏は技術方面を受け持って、サウンドデザイナーたちが自由に創造性を発揮できるようにしました。 「Headhunter」の音楽は映画のようなテーマを持ち、オーケストラの生演奏をアビーロード・スタジオで録音しました。
「映画音楽の広がりと深みに匹敵するものを作ろうと思いました」と、ジャック氏は語ります。 「ほかのサウンドデザイナーと協力して、効果音や楽曲のサラウンドミキシングがバランスの取れたものになるようにしました。 効果音はサラウンドとセンタースピーカーを使ったほうが生きるけれど、楽曲は左右のメインフロントスピーカーからのほうが映画っぽくなると、僕たちは判断しました。」
「『Headhunter: Redemption』は、延べ2時間以上にわたるフルサラウンドミックスのカットシーンを用意し、それらを最も効果的に用いています」と、ジャック氏は言います。 「フィルムミキサーでさえ、怖がってフルサラウンドを使えないことがあります。使いこなせる人は多くありません。 『Headhunter』では、ダークな空間やドラマティックな効果を生みだすためにフルサラウンドを使い、それによってプレーヤーを引き込み、注意を持続させるようにしました。」
「このような効果を生み出せたのは、サラウンドサウンド技術、特に5.1対応のXboxがあったからこそです。 内蔵されたドルビーデジタル5.1リアルタイムエンコーダーを使えば、簡単に作業してファイルを配信でき、メインゲームエンジンに問題を起こすこともありません。」
ジャック氏はまた、PlayStation 2とゲームキューブに採用されたドルビープロロジックIIでも、サラウンドトラックを容易に作れることがわかりました。 ドルビーの欧州ゲームマネジャー(Dolby's European games manager)であるバレリオ・ファッジョーニは、問題解決に大きな力を発揮しています。 ファッジョーニは「Headhunter」のサラウンドミックスから5.1ステムを取り出し、ドルビーDP563エンコーダーを使用してそれらをドルビープロロジックIIにエンコードしたのです。
また、Pro Tools®、Logic® Audio、Dynaudioのモニタリングシステムが、自分のサラウンドミックスを制作するためにきわめて役に立つことがわかりました。
問題と解決
ジャック氏によれば、ゲーム業界で働く人々はいまだにボリュームスタンダードのことを気にしていて、この話を持ち出せばオーディオクリエーター同士で有意義な会話ができるといいます。 映画やテレビ番組のダビングには基準表があるのに、ボリュームレベルはいまだにゲームの問題にとどまっています。 ビデオスタンダード は大きく前進していますが、オーディオはゆっくりと追いついているだけです。 オーディオの予算とスケジュールに対しては、もっと理解が必要だとジャック氏は言います。ディベロッパーがサウンドの予算に非現実な上限を設け、後になってからサラウンドサウンドミックスを使いたい、ミュージシャンのライブ演奏を入れたいと言い出すこともしばしばだそうです。
「資金をケチれば、結局、市場に出回る他のタイトルより音質の悪いゲームができあがるだけです。それが低評価につながり、ゲームの売上にとって致命傷になるということです」と、ジャック氏は説明します。 「良質なオーディオにどのぐらいの予算が必要なのか、理解する必要があります。 『Headhunter』のサウンドには25万ポンドかかりました。これは、ニュース放送の生収録、複数の声優、フォーリーアーティスト、オーケストラといった、どうしても必要な要素も含めた予算です。」
オーディオの将来について尋ねると、ジャック氏は、大規模な楽曲、他のスタイルの音楽、使用許諾を受けたトラック、サウンドデザインのいずれもがゲームプレーには不可欠の要素だと言います(たとえば、何者かが背後から忍び寄ってくる時、それが見えるより前に聞こえる音、あるいはインタラクティブミキシングなど)。
「映画には多額のオーディオ予算がつきますが(製作費全体の少なくとも5%程度)、ゲームでは映画よりはるかに没入感の高い体験をプレーヤーに提供しなければならないのです」と、ジャック氏は言います。 「質の高いオーディオが高くつくということは否めませんが、どうして僕たちが、映画の10分の1の予算でもっと質の良いものを作らなければいけないのでしょう?」
ジャック氏は、次世代のハードウェアがステレオに戻ることはないと考えています。自分のスタジオはすでに7.1システムにアップグレードしています。 だから、ゲームプレーヤーが何本スピーカーを持っていようとも、適切にミックスされたサラウンドトラックを聞くことができるはずです。
また彼は、ゲームに使われる音楽の使用許諾について未来は明るく、「Singstar™」や「EyeToy: Play 2™」などの音楽主体のゲームが成長するだろうと予測しています。 彼は現在、「エアギター」ゲームの制作に取り組んでいます。
「進行中の仕事は結構あります。オーディオが前より重視されるようになっているし、クライアントは、僕が品質にこだわり抜き、常に限界に挑んでいることを知っていますから」と、彼は言います。 「現在はEmpire Interactiveの『Starship Troopers™』の楽曲、ソニー・ロンドン・スタジオの『EyeToy: Play 2』 に取り組んでいます。また、セガの『OutRun 2』のリミックスを終えたばかりです。あとは、ソニーのPSP版ゲームも。 でも、それについてはしゃべることはできません。しゃべったら、あなたを殺さなきゃいけない!」
ジャック氏が将来のゲームで制作したいと思っているのは、フルインタラクティブのオーケストラサウンドトラックです。8種類かそれ以上の曲調があって、インタラクティブにキューが出たりミックスされたりするというもので、サウンドトラックがゲーム内容とより緊密に一体化します。 「僕の頭の中には、完全にインタラクティブで、ダイナミックで、マルチレイヤーかつマルチチャンネルのサラウンドサウンドによる楽曲という構想があります。そこでは、作曲家の自由と創造性に対する制約はありません。 早く次世代のゲーム機に触れたくて、待ちきれません!」