中村正人(DREAMS COME TRUE)と松浦亮(ドルビーラボラトリーズ)が映画音楽とドルビーの歴史を歩く
エンタメ愛にあふれるコンテンツマスター ドリカム・中村正人氏と振り返るドルビーと映画の”抜き差しならない関係”とは!?(文/大谷隆之 撮影/笹原清明)
エンタテインメントを裏で支える影の功労者
中村 僕は1958年の生まれなんですが、この世代の音楽好き・映画好きにとって、「ドルビー」って単語は何か特別な響きを持ってるんですよね。
松浦 実は私も58年生まれでして。
中村 そうなんだ! うれしいですね(笑)。僕らの少年時代って、大オーディオブームだったでしょう。僕も週末ごとに秋葉原でカタログを集めてたクチですが──。
松浦 ちょうど小学校の高学年でカセットデッキが登場し、中1でドルビーのノイズリダクション(NR)が出てきた。
中村 そうそう(笑)。カセットテープのあの「シュー」という雑音が魔法のように消えた驚きをリアルに経験している。その後、プロを目指してミュージシャン活動を始めてからもドルビーのNRシステムとは切っても切れない仲だったので。ずーっと一緒に歩いてきた感覚なんですよ。
松浦 おっしゃる通り私たちの会社は、65年に設立されて、まずノイズリダクションからスタートしました。さらに70年代半ばからは映画館におけるサラウンド音場開発にも深く関わっています。いわゆるモノ作りのメーカーではないので、実際には「名前はよく耳にするけど内容は知らない」という方が多いと思うのですけど……。
中村 でも、ホームシアターのシステムもDVDやブルーレイなどのパッケージも、ドルビーの技術なしには成立しない。要は劇場から家庭まで、エンタテインメント全般を陰から支えている会社だと。
松浦 はい。今日は映画のソフトを中心に、私どもの音響技術の変遷を中村さんと一緒に振り返っていければと思います。
中村 身近な存在だけど、系統的に教えてもらうのは初めて。ワクワクしますね!
Dolby Japan株式会社 マーケティング本部
テクノロジー・エバンジェリスト
松浦 亮
国内A&V機器メーカーで商品開発、商品企画担当後、ドルビーの音に対する取り組みに惚れ込み、1998年ドルビージャパンに入社。映画館からホームエンタテインメントまで、ドルビーが45年に亘り生み出してきたこだわりの音がもたらす感動を余すことなく伝えるドルビーサウンドの熱き伝道師。
時代の変化を実感した『スター・ウォーズ』の衝撃
松浦 そもそも、映画の音響システムには2つのニーズがあると思うんですね。まずクリエイター側には、より自然でリアルなサウンドを届けたいという強い思いがある。と同時に観客は、普段は絶対に味わえない非日常的な感動を希求しています。
中村 うん。全くその通りだと思います。
松浦 ドルビーの技術も、基本はこの2つの要望を満たすために発展してきました。最初の接点は71年。キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』に当社のNRが使われたことです。ご存じの通り映画の音には台詞・効果音・音楽という3要素があります。アナログの時代はこれを重ねるごとにノイズが増えていましたが、以降はぐっとクリアなサウンドで映画が楽しめるようになりました。しかし、何と言っても決定的だったのは、70年代半ばに登場した立体音響(サラウンド)を創り出す技術です。
中村 これはもう今でも強烈に記憶しているんですが、確か銀座で『スター・ウォーズ』を観て、驚愕しましたね(笑)。特にオープニングのシーンで、スクリーン上方から宇宙船が出てきた時の迫力がもの凄かった。映画館の暗闇の中で「あ、時代が変わったな……」って実感しましたもん。
松浦 それが「ドルビーステレオ(サラウンド)」です。最初の採用は76年の映画『スター誕生』ですが、やはり私たち世代にとっては『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』が公開された77年が象徴的ですね(笑)。
松浦 この「ドルビーサラウンド」というのは、本来2chしか記録できないフイルムの音声トラックにドルビーの独自技術でチャンネルを4つ入れ込んだもので、非常に長く使われました。次のステップは一気に下って、92年です。
中村 その間、デジタル革命があって。
松浦 そうです。「ドルビーデジタル」ではデジタルの広大なDレンジ、周波数特性のメイン5つに低音専用を加えた5.1chを特長としています。おかげで以前は空間全体を包み込むサウンド設計しかできなかったのが、音に明確な方向性を持たせやすくなった。例えば宇宙船の飛ぶ向き、光線銃の角度など、細かい音の演出が可能になったんですね。
中村 ちなみに99年の『スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントムメナス』からは、「ドルビーデジタルサラウンドEX」って技術が出てくるでしょう。あれはどういう目的だったんですか? というのは、自宅のシアターで何回聴き比べても、今ひとつその意図が実感できないんですよ。
松浦 さすが鋭いです(笑)。「EX」は後ろ側に1つ増えた6.1chなんですが、重要なテーマとして「広い劇場のどの席でも同じような音響効果を味わっていただく」という要請があったんですね。ですからホームシアターのようにスイートスポットで聴くと、多少違いが感じにくいきらいはあるかもしれません。
中村 でも制作者側から見れば、音作りの自由度は確実に上がってるわけですからね。凄い、今日初めて「EX」の本当の意味合いが腑に落ちました(笑)。
ドルビーの技術が生み出す3D時代のサウンド表現
松浦 この「EX」は、昨年まで11年間最新システムとして君臨してきたんです。しかし、ついに昨年、デジタル上映専用の新システム「ドルビーサラウンド7.1」が登場しました。これはドルビーの米国本社がピクサー・スタジオから相談され、彼らが『トイ・ストーリー3』を公開する際に、3D映像をいかす演出のために開発されたものなんです。
中村 へええ! 面白いですね。
松浦 それで後方スピーカーをLRの2つに振り分けるという最小限の変更だけで、より自由度の高い音響演出を可能にする手法がとられています。
中村 今日プレゼンしていただいてるこの部屋は、「ドルビーサラウンド7.1」に最適化されたセッティングになっているんですよね? 実際『トイ・ストーリー3』をブルーレイで観せていただいて、いろんなことがわかった気がします。まず後ろ側が2つに分かれたことで、フロントからリアまできっちりステレオ感が表現されている。3Dでは奥行きの映像情報が多くなるから、ピクサー・スタジオが意図するサウンドデザインにはここまで制御が必要なんでしょうね。
松浦 そうなんです。作品を担当したエンジニアの話でも、前・中・後と3つのステレオ音場を作れることが、演出面では一番効果が大きかったとのことでした。
中村 見せていただいた列車の場面なんて、象徴的ですね。残響音が手前から奥側までずっとLRに分離している。表現の範囲が大きく広がりますね。ただチャンネル数が増えるたび作業量は飛躍的に増えますから、エンジニアは大変だろうなぁ(笑)。
松浦 中村さんはご自分でも映像ソフトを作られるから、その辺りのご苦労は私よりはるかにご存じですね(笑)。
映画館からホームまで進化する「音の演出」
松浦 最後に少し、「今後映画がどうなるのか」についてお話しできればと思います。まず大きな要素として、今のフイルム上映からデジタルシネマへと主流が移っていくことが予想される。するとチャンネル数の制約が一気になくなります。
中村 なるほど、フイルムだと音声信号を記録するスペースに物理的な限界があるけれど、デジタルの場合は違うと。
松浦 そうなんです。デジタルシネマでは、フォーマット上は18.2chまでチャンネルを増やすことができる。さらに特徴的なのは、この規格では「平面」だけでなく「高さ」方向の信号も記録できます。
中村 最近のAVアンプには、その効果を擬似的に再現できるものもありますね。
松浦 はい、「ドルビープロロジックIIz」というやつですね。
中村 ちなみに我が家も近年、天井に4つスピーカーを足したんですよ(笑)。AVアンプがバーチャルに再現しているもので、ソフトに記録された信号ではありませんが、それでも上から降ってくる音があると全然気持ちの入り方が違う。
松浦 天井チャンネルのことを、英語では“ヴォイス・オブ・ゴッド”と言うんです。うまい表現だと思います(笑)。
中村 神の声か、なるほど。
松浦 今日は『U-571』という潜水艦の映画を使って、通常の5.1chと擬似的に高さ信号を加えたものを比較していただきましたが、いかがでした?
中村 海中深く先行する話だけにぴったりでしたねぇ(笑)。水圧で艦の天井がギシギシ軋むところとか、監督は実はこれがやりたかったんだろうなという感じで。
松浦 映画館への本格的な導入はまだ先になりそうですが、将来サウンドデザインが進む方向性としては大きいと思います。
中村 映画だけでなく音楽コンテンツにも非常に良さそうですね。ライブ映像の場合、演奏はもちろん、会場全体のアンビエントを伝えることが重要だと僕らは考えていまして。高さのサウンドデザインができれば、その表現力は一気に広がります。
松浦 そう言えば以前ドリームズ・カム・トゥルーのブルーレイを拝見した時、スタジアム全体が揺れてるようなグルーヴ感が出ていてすごく感心したんですよ。
中村 それは最高の褒め言葉ですね(笑)。ちなみに4月27日にリリースするドリカムの次のブルーレイでは、「ドルビーTrueHD」という原音回復可能なロスレス音声の高音質規格に対応しているんですが、今日はそれ以外にもいろんなヒントをいただけた気がします。何より自分のエンタメ人生がずっとドルビーと共にあったことが再確認できました。痒いところに手が届くプレゼン、本当に勉強になりました。そして今後もよろしくお願いします!
松浦 いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました。
DREAMS COME TRUE Release Info
Live Blu-ray
『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2007』
価格:5200円
■本編(Disc1枚・2層)■映像:HD159分
(1080 High Definition 59.94i/MPEG4 AVC)
■音声:1.リニアPCM STEREO
2.ドルビーTrueHD 5.1ch サラウンド■画角:16:9
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