ドルビーとデジタルの時代

オーディオ技術のリーダーとしてドルビーは、アナログからデジタル録音に時代の流れを変えた新しい強力なシステム、ドルビーSR(スペクトラル録音)の導入により1986年にその評判を飛躍的に高めました。 すでにノイズリダクションシステムのために開発されていた固定バンドとスライディングバンド技術とを組み合わせることにより、ドルビーSRは既存の業務用アナログレコーダーの性能を高め、高価なデジタルレコーダーと同等またはそれ以上の性能を発揮できるようになりました。 このことはコスト面でデジタル装置を取り入れることのできなかった多くの業務用録音施設に歓迎されました。

またドルビーSRは、サウンドトラックのミックスとフィルム上のサウンドトラック自体の両方において、映画サウンドを大きく改善しました。 現在、超低ノイズ特性と超低歪特性を持つドルビーSRエンコードアナログ光学サウンドトラックは、アナログの映画サウンドで最新技術となっており、デジタルのサウンドトラックも持つリリースも含めて非常に多くのリリースに使われています。 さらにドルビーSRからは、民生用カセット録音用にドルビーSというさらに強力な新しいNRシステムも作られています。

ドルビーラボラトリーズはこれらの優れた新しいアナログシステムを開発すると同時に、1982年にデジタルオーディオの研究も始めました。 このときの主要目標は高品質のデジタルオーディオを伝送し保存するのに必要となるデータ量を減らすことでした。 これは現在も引き続きドルビーの目標となっています。 低ビットレートデジタルオーディオシステムは知覚コーディングと呼ばれることもありますが、このような符号化がないと、帯域幅を取りがちなデジタルオーディオの可能性は大きく制限されてしまいます。

最初のデジタル製品、DP80 ドルビーラボラトリーズの最初のデジタル製品、DP80エンコーダはドルビーの最初のデジタルオーディオコーディング技術、ドルビーAC-1を搭載。 (1985年)

最初のドルビーデジタルコーディングシステム、ドルビーAC-1は1984年に発表されました。 これは1985年以降にいくつかの直接衛星放送やケーブル放送システムで使われました。 エンコード装置は自社生産し、デコーダはライセンスとしました。 本格的な業務用高品質オーディオを提供するさらに優れたシステムであるドルビーAC-2は1989年に発表されました。 それ以来この技術は、音楽録音あるいは映画スタジオで、離れた設備間での低コストISDN接続による遠隔モニター、ダビング、その他の目的でよく使われるようになりました。 現在ではドルビーデジタルの名で親しまれているドルビーAC-3は1992年に発表されたものです。 これは特にマルチチャンネル音声を目的とする映画音響や家庭用デジタルサラウンドなどのために開発されました。

ドルビーがスムーズにデジタルオーディオの世界へ移行できたのは、長年の心理音響学やノイズリダクションに関する研究基盤があったからで、これらはとりも直さずアナログ的なオーディオコーディングそのものだったのです。 たとえば、バックグランドノイズは、利用できるオーディオのデジタルデータの量が減るにつれ高まります。 ドルビーのデジタル技術はこの明らかな弱点を利点に変えて利用します。 つまりノイズレベルがオーディオ信号そのものに隠される、または消される点までノイズを許容する方法を使用しているのです。

ノイズがある限界値まで下がるとそれは聴き取れないものとなるので、それより下げる必要はなくなります。 しかしこのしきい値(threshold)はオーディオのスペクトルの場所により異なるもので、これは臨界帯域(critical band)と呼ばれます。 また、これはそれぞれのバンド内での信号の大きさによっても異なってきます。 ドルビーAC-2とドルビーデジタルは常にこれらの各臨界帯域の信号がどの程度の大きさであるかをモニターし、ノイズをそのバンドのちょうどしきい値以下に維持できるよう適量のデータでコーディングします。 ドルビーデジタルはまたこれらのバンド内に起こっていることを異なるチャンネル間で比較し、1つのチャンネルでの音が別のチャンネルのノイズを隠せるようにします。 この複雑なプロセスにより、非常に高効率の圧縮利得が得られるようになるのです。 ドルビーデジタルでは6つのオーディオチャンネルをCD上のたった1つのチャンネルに必要とされるデータより少ない量のデータで伝送または保存できるようにします。

ドルビーデジタルとその将来

ドルビーデジタルの最初の用途は映画音響でした。 ビットレートの低減により35ミリのリリースプリント上に完全独立の光学サウンドトラックを置くことができるようになりました(スプロケット穴間のエリアに)。 このように使用空間の節約が可能になったことにより、ドルビーデジタルの映画プリントは通常の位置にアナログのドルビーSR光学トラックを持つことができ、どのような映画館でも問題なく使えるものとなっています。 ドルビーデジタルは現在レーザーディスク、DVD、ATSCデジタル放送テレビ、デジタルケーブルシステム、サテライトシステムにも使われています。

映画に使うデジタルサウンド、またはディスク、あるいはその他の民生用フォーマットでデジタルサウンドの採用において、ドルビーラボラトリーズはかなりの競争に直面しなければなりません。 しかしドルビー社は優れた技術開発が行えるというだけではなく、その業務用機器製造設備を使って、またライセンス許諾プログラムや映画サウンドプログラムなどを通して、優れた技術の世界的な普及を促進する、他に類を見ない会社となっています。 さらに、ドルビー社のために優れた能力を発揮する社員、比類のない素晴らしい品質に支えられてドルビーラボラトリーズは自信を持って将来に向かっていきます。